白い巨塔という日本の大病院を舞台にしたドラマがあったが、某国で病院は、軍隊・学校・公安と共に腐臭が漂う4大巨塔”の一つに数えられる。病院の内部事情には詳しくないが、会社の現地スタッフや友人に付き合ってローカルの病院には何度も行ったので、目に見える範囲での状況は理解している。

 某国においては、病院とは金儲けが目標で動く組織である。医者はどうかといえば優秀な医者も大勢いるだろうが、殆どがお金を個人的に儲けたい人が医者をやっており、技術的にはヤブ医者クラス以下を目にする事が多い。一度、耳に腫物ができた時に友人に連れられて3箇所ぐらいの病院を回った。何故3つも行ったかと言えば、1つ目の大病院の医者の診断が余りに信頼できなかったので、次に行ってみようと思ったからである。結果3つの病院の3人の医者の診断結果はすべて異なり、どれも「なんじゃ!それ」レベルの診察内容であった。3つとも違う薬を処方されたが、憤慨して薬も買わずに帰宅した、診察時何を言われたか記憶にも残っていない・・・

 もちろんそんな医者ばかりでなく、真面目で経験豊かな医者も多いと思うが、コネ社会でのし上がってきた連中は往々に実力が伴わない。ある程度大きな病院へ行くと医者の経歴や専門を紹介したパネルが壁に掛けてあり、各先生方の経歴欄には、○○学術協会 ○○理事とかの役職、またはドイツやアメリカ、日本への留学経験がズラズラ書かれており立派、立派。でも、どれも銭で買える肩書ばかりだね、銭があれば箔を付けたがるのがこの医療学会の体質でもある。先日、手が痛くて知人の紹介で市内の“針治療の権威”と言われている医者に会った。針に関しては一流で、会社の同僚も五〇肩の痛みが直ぐに回復したとの事だった。期待して行ったが針治療ではなく飲み薬を処方されて帰ってきた。

 先生は70才近いご高齢であったが、昔から金銭には全然興味が無いそうである。某国にも立派な先生がいるものだと感心していたら、友人曰く「この先生銭は興味ないけど若い女性にはすごく興味ある」そうだ。自分の針医院には、若い女性のスタッフを沢山抱えていて、彼女たちはこの先生から針治療のご指導をもらう代わりに、あっちのお世話をするらしい・・・そして資格や証書をもらって巣立っていく。だめだ こりゃ!!!

 某国の大都市には、必ず児童病院と言う小供専門の大病院があり、16才までの子供はそこに行くことが多い。医者も専門で見ているので、経験値が高い分、診察結果も比較的信頼できる。しかし仕事の関係でも何度が行ったが、大変な混みようである。病院は、まず受付で料金を払って待合番号を購入しないといけない。「桂号」というがこれをもらうのに長い列をつくる。この桂号購入時に患者の状況を話して、内科に行くのか循環器に行くのか指示を受ける。

 担当科に行けば沢山の人が待合室に座って診察を待っている。やっと自分の順番が来ると医者の部屋に入り状況を伝える。すると、子供の場合まず血液検査をしてもう一度来いと言われ、また書類を持って窓口に並ぶ、窓口で採血料金を払い採血場所へ。子供が小窓に手を入れると中の看護婦が指に穴をあけて血液を採る。それから検査結果を知らせる場所で待機していると、番号で呼び出され検査結果がもらえる。それを持って先ほどの担当医の所にまた戻るのである。

 医者は血液検査の結果を見て、次の判断を下す。病名を告げ薬の処方である。薬は、処方箋を持って支払い窓口でまずお金を支払い、それからその支払い済伝票を持って薬窓口に並び薬を受け取って漸く終わりである。いったい何度行列に並び、何度支払い行為をして、何度検査をするのか・・・子供の場合でも、ちょっと体力が落ちていると点滴での薬投与が一般的である。点滴になればの「並ぶ行程」と「支払いの行程」がもう一つずつ増える。だから子供が風邪引けば、パパとママは、病院でまるまる1日がかりなのだ。

 有名な病院の医者にコネなしで見てもらおうとすると、先程の桂号を寝袋を持参して2日間ぐらい並ばねば取れない。そんな病院は”並ぶ事を商売にしている連中”が多く喧嘩も絶えない。並ぶだけで病気になりそうだ。但し、銭とコネがあれば列なんて全く関係ないのである。

 昔、銀行は2つの顔を持つと言われた。もちろん、貸し手としての銀行と預金窓口としての銀行の顔である。金を融資する立場の銀行員は、借り手の中小企業経営者には厳しい態度で臨む。某国の病院も同じように2つの顔を持つのだ。但し、両方とも同じ患者である。何処が違うかと言うと「金持ち又はお偉いさんの患者」と「普通の患者」の違いなのだ。

 我々、外国で生活する駐在員は大抵の場合、会社が用意した旅行傷害保険に加入しており、現地では外国人向けの病院へ行ける。某国首都にもそういった病院が沢山あるが、有名な中日友好病院もその一つだ。外国人として保険を使ってその病院へ行くとVIP並みの対応をしてくれる、懇切丁寧に案内から診療まで実に親切である。ある時、私は日本人とは申告せず一般窓口から「普通の患者」としてトライしてみたことがあった。その時の職員の態度はそれは酷いもので人間以下の扱いであった。地元の一般患者は金にならないと思っているのか、行きたい場所を職員に聞いても、鼻でふぃっと方向を示すのみ返事もない。拝金主義の醜さが集約された場所である。

 某国の親玉が近平君になってから、この辺にもメスが入り始め、診察後医者がすぐに血液検査、即点滴を処方することは禁じられたが、実際はほとんど改善されておらず、ご指導はまだまだ浸透していない。本当の実態を知ろうとすれば政府高官の立場のままでは永遠に理解する機会がない。ふつうの庶民の立場になって初めて判る格差社会の実態なのである。この国はもう一度革命が起きて根底から覆らないと変わらないかもしれない。それは、某国共産党が一番恐れていることでもあるのだ。(2017年6月記)

HOME
ボクの某国論
其の三十 黒い巨塔の巻